人前に立って話す時、まず、大勢からの視線に耐えられない――これは、ほとんどのあがり症の人にあることだと思います。皆から黙って見つめられると、それだけで恐怖感をおぼえ、足が震え出したり、脂汗が滲んだりするものじゃないでしょうか。
そうならないためのノウハウが、2つあります。おそらくどんな「話し方教室」でも教えている、基本的なことです。
聞き手は真剣になど聞いていない
どうして聴衆から視線を浴びるとあがってしまうのか? それは、自意識過剰になってしまうから。これは誰でも、実感として分かっているでしょう。聴衆が、あなたの言うことをひとつも聞き漏らすまいとして、あなたの一挙手一投足を見つめている……これは恐い……何もできなくなってしまう。
こういう場面であがりを防ぐには、まず、「聞き手は真剣になど聞いていない」と、はっきり意識することです。
自分が聞き手になった時を考えてみてください。目は話し手に向いていても、決して意識は集中していないでしょう? 頭の中じゃ、自分の仕事のことや家庭のこと、趣味のことなんかをアレコレ考えているはず。あなただけじゃなく、周りで聞いている人たちだって同じです。話し方教室の先生たちも、自分が聴衆の一人になったときは「別のことを考えながら聞いている」と言っています。
つまり、聴衆というのは、「あなたに注目している」ようなふりをしているだけなんですね。それに騙されちゃいけない。騙されると自意識過剰になってしまう。だから、「聞き手は真剣になど聞いていない」という現実を、しっかり頭に入れておくのが大事なんです。
でも、頭でそうと分かっても、実際に大勢の人を前にすると反射的に緊張してしまう。これは条件反射みたいなものなので、人間なら仕方がない。で、この問題を解決するのが、次に挙げる方法です。
日常の中で人の視線に慣れる練習
聴衆から見られた時の緊張を防ぐのにいいトレーニングがあります。日常でできる一種のマインドトレーニングで、話し方教室の先生やスピーチトレーナーが勧めています。具体的には次のようにやります。
例えば、電車の座席に座っている時、向かい側に並んで座っている人たちの顔を一通り見回して、「今からこの人たちの前でスピーチする」という気になってみる。そういう気で、(変に思われないようにさりげなく)向かいの人たちの顔を眺めてみる。
あるいは、横断歩道の信号待ちの時、向かい側に立っている人たちを聴衆だと想像しながら、ひとり一人の顔を順番に見ていく。そして、「今からこの人たちの前でスピーチするんだ」という気になってみる。
劇場やコンサート会場、映画館などの開演前や休憩時間などは、絶好の機会です。さりげなく一番前まで行き、客席側に振り向き、座っている人たちの顔を見ながら、「今からこの人たちにスピーチをする」と本気で想像してみると、臨場感のある練習になります。
結婚披露宴に呼ばれた時も、(自分がスピーチしなくても)自分がスピーチするイメージを持って、会場の来賓たちの顔を見回すといいのです。
要するに、「多くの人の目が自分に向く場面」を利用した、ちょっとしたイメージトレーニングですね。人の目が自分に向く状況に慣れる、というのが目的です。普段こんな場面では、きっと顔を伏せて人々に対面しないようにしているんでは? でも、そこで敢えて顔を上げ、人々を見回し、対面してみるというのが、このトレーニングの肝です。ある話し方教室の先生は、これに「対面練習法」という名を付けて積極的に推奨しています。
個人差はあると思いますが、この練習で視線の恐さはかなり軽減するはずです。私もこれをやって度胸がつきました。ただ、練習してみても効果がなければ、あがりの原因がもっと別のところにある可能性もある。もしそうなら、より根本的な解決策が必要なのかもしれません。
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